十数年前、中学生の頃の話。
同級生にサカモト君という男子がいた。彼はいわゆる不良というグループに属していたが、体格はよくなく要領がよかったわけでもないためリーダー格ではなく、どこか可愛らしいヤンキーだったように思う。
通っていた中学校では月に数度のペースでパソコンの授業があった。授業の内容はゲームで遊ぶだけの時も数度あったが、タイピング練習やホームページビルダー(懐かしい)を使って自分のWebサイトを作る演習などがあり、Webで情報を検索するという内容もあった。
僕は従弟が大学に通っていたこともあり、パソコンには小学校高学年頃からパソコンには馴染んでいたので、Webで情報を検索するという行為は簡単であったが、同級生の皆がそうというわけではなかった。まだGoogleは全盛期ではなく、Yahooが主流であった。当時の主なWebでの情報検索方法は二通りあったように思う。
・Yahooのトップページで該当するカテゴリを辿って情報に行きつく
・Yahooのトップページで検索バーを使って検索を行う。
このどちらかを利用して情報に辿り着く練習を行っていたが、どうもサカモト君は欲しい情報に辿りつけていないようだった。隣の席だった僕は彼に何を探しているのか聞いた。するとサカモト君は「バイクの種類について知りたいんだけど、うまくいかない」と答えた。彼はバイクが好きだったので、懸命にカテゴリをたどっていたが、うまく辿り着けないという。検索バーを使うと上手くいくかもしれないよ、と伝えると彼は検索バーに「バイクの種類について教えてください」と打ち込んだ。僕は驚いた。その方法では検索はうまくいかない。「バイク 種類 」などと単語で打ち込んでやる必要がある。僕はやり方を説明したのか、代わりにやってあげたのか、当時の事はもう覚えていない。ただサカモト君が打ち込んだ文字だけを覚えている。単語ではなく口語だったこともあるが、なにより、普段はヤンキーぶって乱暴な言葉遣いをするサカモト君が検索バーに対して丁寧に聞いていたからだ。
それから10年程経った頃に、iPhoneが登場する。そしてSiriという音声エージェントが搭載される。AndroidにもOK,Googleが搭載された。これらの機能を使う際は、単語でなはなく、むしろ口語に対して最適化を目指して設計されていた。この音声エージェントが登場した時、僕はサカモト君を思い出した。彼がバイクの種類を検索できる日が来たのではないかと。
しかし、普段からWebになれてこなかった人達にとっては、検索という行為はうまくいかないままだと思う。検索には単語選び以上に、情報の取捨選択にコツがいる。意図的なガゼや間違った情報、目立ちたいだけの誇張、お金儲け狙いのアフェリエイトや広告記事がありふれている。Webに慣れた人たちは、それらを見分けて取捨選択し、必要な情報を得ていく。十数年前よりWebに情報が増えた分、さらに難しくなった。
サカモト君が今どうしているかは知らないけれど、あの当時のWebリテラシーのままであれば、彼がバイクの種類について辿り着く難易度は今も変わってないように思う。Webの登場によって多少なりとも情報格差は減ったんだろうけれど、代わりに教育格差は拡がったとも思う。(それは「自己責任」とされる可能性も増したようにも思う)
サカモト君がWeb検索をできる日は来るのだろうか。